看護師は、パワハラやセクハラなどの被害が多い職業です。しかし閉鎖的な空間で被害を訴えにくく、「看護師だから仕方ない」と我慢してしまう人も多い現状があります。
コンプライアンスの意識が高まり働き方改革が進む一方で、古い体質が抜けきれないところが医療機関の問題点です。当記事では、看護師が受けるハラスメント事例や対処法について解説します。

看護士へのハラスメント事例
看護師はハラスメント被害を受けることが多い職業です。医師や同僚、患者などからハラスメントの標的にされます。
「気にしすぎかも」「自分が悪いから」と思っていることでも、ハラスメントに該当する行為かもしれません。ここでは、看護師が受けるハラスメント事例を紹介します。
医師・先輩看護師からのパワハラ
看護師は女性が多く、嫉妬や意地悪が生じやすい環境にあります。先輩や医師からの「指示・指導」とパワハラとの区別がつきにくいことも問題点です。
厚生労働省は、パワハラを以下のように定義しています。
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
引用元:パワーハラスメントの定義|明るい職場応援団(厚生労働省)
自分が「パワハラやいじめをうけているのか」「指導されているのか」分からない人は、業務上必要かつ相当な範囲かどうか考えてみてください。必要以上の嫌がらせや労働環境が害されるのであれば、パワハラであるといえます。
- 体調不良でも休ませてくれない
- サービス残業を強いられる
- 医師からの高圧的な対応
- 必要以上に人前で罵倒される
- 嫌な仕事やミスの押し付け
上記のようなパワハラに悩んでいる人が多いようです。少しでも理不尽に思うことがあればパワハラの可能性があるので、我慢せずに退職・休職や慰謝料請求など適切な対処法を検討しましょう。
医師・先輩看護師からのモラハラ
パワハラよりも分かりにくい方法で、看護師のメンタルをボロボロにしていくのがモラハラです。あからさまな嫌がらせがなくても、先輩や医師から精神的に追い詰められているならモラハラかもしれません。
厚生労働省では、モラハラを以下のように定義しています。
モラルハラスメント
引用元:用語解説 メンタルヘルス関係|こころの耳(厚生労働省)
言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせることをいいます。パワハラと同様に、うつ病などのメンタルヘルス不調の原因となることもあります。
「自分の心が弱いのでは」「自分が情けないから怒られるんだ」と自分を責めてしまう看護師が多く、問題が明るみに出ないうちにストレスで心や体の調子を崩してしまいます。モラハラしている相手にも自覚がない場合が多く、とても厄介なハラスメントです。
- 無視・仲間外れ
- 見下したような言動
- 過去の失敗を何度も言ってくる
- 陰口を言われる
- 恋愛・結婚や出産へのしつこい詮索
上記など、少しでも当てはまることがあればモラハラの可能性があります。「自分が悪い」「我慢が足りない」と自分を責めないで、きちんと問題として取り上げ対処しましょう。
医師・先輩看護師からのセクハラ
看護師は女性が多く、男性と2人きりになることもある閉鎖的な職場です。そのため、コンプライアンスの意識が高まる現代でも同僚や医師からのセクハラはいまだになくなりません。
頻繁にセクハラされるので「看護師だから仕方ない」と慣れてしまう看護師も多いようです。医師や上司など目上の立場の人からセクハラされることが多いため「人に言ったら働けなくなる」と諦めて我慢するケースもあります。
- 不用意に身体を触られる
- 身体に特徴を執拗に言われる
- 性的な発言を繰り返す
- 行き過ぎた下ネタ
- 性的な噂話や陰口
身体を触られるだけでなく、性的な言葉をかけられることもセクハラに該当する行為です。セクハラ加害者がとくに意図せず発した言葉でも、被害者が不快に感じ労働に悪影響が生じればセクハラになります。
患者からの各種ハラスメント
看護師は、患者やその家族からハラスメントを受けることが多くあります。暴言や暴力、セクハラや嫌がらせなど……一般社会では問題になるようなことでも、患者から看護師への行為なら許されるように思われているのです。
看護師本人も「看護師だから」「病気だから仕方ない」と受け入れてしまいます。同僚や医師からのハラスメントなら問題にできますが、患者からのハラスメントは扱いが難しいものです。
しかし、看護師も患者と同じ人間です。苦痛なことを我慢する必要はありません。被害を拡大させないためにも、患者からのハラスメントもきちんと上司に報告することが大切です。
看護士がハラスメント被害を受けた時の相談先
ハラスメント被害を受けても、誰に相談すればいいか分からず悩んでいるのではないでしょうか。「自分が悪いのかも」「言っても仕方ない」と諦め、我慢して働いている看護師が多く存在します。
職場で頼れる人に相談できるのが一番ですが、職場で相談しにくい状況であれば公的な相談窓口がおすすめです。ここでは、看護師におすすめのハラスメント相談先を見ていきましょう。
信頼できる人に相談する
ハラスメントを受けたら、まずは信頼できる同僚や先輩に相談しましょう。別部署の人でもいいので、最も信頼できる人に相談することが大切です。職場の産業医もハラスメントの相談に乗ってくれます。
- 信頼できる同僚・先輩
- 信頼できる師長・看護部長
- 信頼できるドクター
- 産業医
- 人事課の職員
セクハラやモラハラの相談は恥ずかしくて言い出しにくいですが、1人で悩まず誰かに話すことで気持ちが楽になるはずです。相談することで、状況に応じた適切な対処法が見つかる場合もあります。
産業医なら休職するために必要な診断書を書いてくれる場合もあるので、気軽に相談してみてください。どうしても相談したい相手が見つからない場合は、これから紹介する「労働組合」「公的な相談窓口」に連絡しましょう。
労働組合に相談する
労働組合に所属している看護師は、労働組合に直接相談することも可能です。まずは自分が労働組合に所属しているかどうか確認してみてください。
- 病院・職場の労働組合
- 医労連(日本医療労働組合連合会)
- 1人でも加入できる地域労組
労働組合は「団体交渉権」を持ち、労働組合の職員が当事者に変わって職場と話し合いをしてくれるので安心です。自分で対処できる段階であれば、自分でできる適切な対処方法を教えてくれます。
ハラスメントに関する公的な相談窓口
パワハラやセクハラが社会的に問題になっているため、公的機関が相談窓口を用意しています。どこに相談すればいいか分からないときは、これから紹介する相談に連絡してみてください。
電話料金はかかりますが、基本的に無料で相談できます。プライバシーも守られるので安心です。ハラスメント対策のプロが、適切な対処方法を教えてくれます。
総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーは、各都道府県の労働局や全国の労働基準監督署内に設置されています。予約不要で無料相談ができ、秘密厳守なので職場の人にバレる心配がありません。
パワハラやセクハラ、嫌がらせなど……あらゆる分野の労働問題に対応しています。面談または電話での対応が可能です。相談先に迷ったら、職場がある地域の総合労働相談コーナーに連絡してみてください。
みんなの人権110番(全国共通人権相談ダイヤル)
みんなの人権110番は、法務省が運営する全国共通人権相談ダイヤルです。パワハラやモラハラなど、人権問題に関する相談を受け付けています。
受付時間は平日午前8:30~午後5:15までです。電話をかけると、最寄りの法務局につながります。秘密厳守なので、職場の人にバレることはありません。
法務局に直接行けば、面接による相談も可能です。面談や電話が苦手な場合はお問い合わせフォームからも相談できます。
法テラス
法テラスは、国が設立した法的トラブルの案内所です。ハラスメントや各種労働問題に対し、法律面からサポートしてくれます。
受付時間は平日午前9:00~午後9:00、土曜日午前9:00~午後5時です。メールでは24時間相談を受け付けています。相談は無料です。
- パワハラ・いじめを法的手段でやめさせたい
- 慰謝料・損害賠償を請求したい
- 職場から損害賠償請求された
上記など、法的手段で対抗したい場合は法テラスに相談してみてください。弁護士や司法書士が、1回あたり30分程度相談に乗ってくれます。
看護士のハラスメント対策・解決方法6つ
ハラスメント被害を受けても、どう対処すればいいか分からず悩んでいるのではないでしょうか。上司や先輩、患者からのハラスメントは報告しにくいですよね。
ここからは、看護師がハラスメント被害を受けた時の対策や解決方法を6つ紹介します。辛い状況に諦めず、適切な対処方法を見つけましょう。
ハラスメントの証拠を集めておく
ハラスメント被害者にあったら、必ず被害の証拠を残しておきましょう。証拠があれば、法的手段に出たときに対処しやすくなります。
ハラスメントの証拠があれば、ハラスメント加害者から慰謝料・損害賠償などの請求が可能です。裁判所で罪を立証し、相手に社会的ダメージを負わせられます。
- 被害状況の詳細なメモ・日記
- メールやLINEの履歴
- 証拠写真・動画
- 相手の発言を録音
- タイムカードのコピー
- 医師による診断書
被害状況のメモや日記は手書きでOKです。できるだけ詳細に、毎日記録してください。ハラスメントが原因でうつ病などを発症したら、必ず医師の診察を受けて診断書を書いてもらいましょう。
写真や動画、録音があればかなり強い証拠材料になります。本人や同僚からの証言だけでは証拠として弱いので、できるだけ多くのハラスメントの証拠を残しておくことが大切です。
毅然とした態度で抗議する
ハラスメントを受けたら、可能であれば毅然とした態度で拒否・抗議しましょう。上司だからといって、泣き寝入りする必要はありません。
一度受け入れてしまえば、ハラスメント加害者はエスカレートします。毅然とした態度で対応すれば、それ以降はハラスメントがなくなる可能性もあるのです。
パワハラであれば「録音した」「弁護士に報告する」、セクハラであれば「証拠がある」「奥さんにバラす」と言うだけでも効果があります。抗議しにくい状況の場合は無理せず別の方法で対処しましょう。
信頼できる上司に報告する
師長など信頼できる上司にハラスメント状況を報告しましょう。看護師を大切にしてくれる職場であれば、上司がハラスメントがなくなるように働きかけてくれるはずです。
師長からのパワハラなどがある場合は、看護部長や人事課に連絡してください。信頼できる人が誰もいない場合は組合に報告するか、異動・退職を検討しましょう。
異動・配置転換を希望する
職場で波風を立てたくない、信頼できる人は誰もいないという状況なら、移動や配置転換を希望しましょう。環境が変われば人間関係をリセットできるので、ハラスメントから逃げられます。
- 看護師の仕事は好き
- 今の職場は退職したくない
- 看護奨学金の返済中で退職できない
- 経済的理由で退職できない
- 異動すれば解決しそう
異動・配置転換をすれば新しい仕事を1から覚え直さなければならず、人間関係の構築もしなければなりません。しかし、ハラスメントのストレスよりは気が楽になるはずです。
異動・配置転換を願い出るときに「人間関係に問題がある」「異動できないなら退職を検討している」と伝えてみましょう。医療機関はどこも看護師が不足しているので、退職されるくらいなら異動希望を通してくれる可能性が高いです。
退職する
辞められる状況なら、思い切って退職してしまいましょう。退職すれば、ハラスメント加害者と二度と関わることはありません。
就業規則をチェックし、退職予定日の2週間~3ヶ月前までに退職の意思を伝えましょう。話し合いをして正式な退職日を決めたら、書類の提出や引継ぎをした後に退職できます。
「退職を言い出しにくい」「師長と話したくない」などの悩みがある場合は退職代行の利用も検討してください。「辞めさせてくれない」「人手が足りない」という状況でも、退職代行を使えばスムーズに辞められます。

法的手段に出る/慰謝料を請求する
ハラスメントは本来許されない行為であり、法的手段で戦うことが可能です。相手や職場に社会的なダメージを負わせたいなら、法テラスなどを利用して弁護士に相談してください。
ハラスメントが原因でうつ病や体調不良になったり、退職することになったりした場合は、民事訴訟を起こして損害賠償請求ができます。悪質な行為であれば「侮辱罪」「脅迫罪」など刑事事件として扱うことも可能です。
法的手段に出る場合、ハラスメントの証拠を提出しなければなりません。そのため、法的手段を検討している場合は在職中に必ず証拠を取得しておきましょう。
看護士のハラスメントまとめ
コンプライアンスの意識が高まる現代社会でも、看護師のハラスメント被害は頻繁に起こっています。看護師という仕事柄「仕方がない」「みんな同じ」と諦め、辛い状況に耐えながら働いている人も多くいるのです。
しかし、看護師も患者と同じ人間です。辛いときは我慢せず、先輩や師長に相談しましょう。誰にも相談できないときは、公的な相談窓口を利用してください。
そして、人手不足で辞めにくい状況だとしても「辞めたい」と思ったら自由に退職できます。看護師としての自分に誇りを持つため、より良い職場環境に転職することも検討してみてください。
