退職を決意したものの、退職届の代筆をしてもらえないだろうか。文書を作ることに抵抗がある人、職場で揉めたく場合にはふと頭をよぎることがあるでしょう。なかには、職場に行かなくて済むなら即日退職したいという人もいます。
直筆が難しい場合、退職届はケースによって代筆が認められることがあります。知識として知っておくと、できるだけ穏便に退職できるだけではなく、自分が直筆できない時に迷わず行動することができますよ。
退職届の代筆が有効であるケースと具体例、退職届以外の手段、代筆に注意すべきポイントをまとめました。参考にして、スムーズな退職を成功させてください。

- 案内人
『退職希望者』と『退職代行業者』の懸け橋になることを目標に本プロジェクトを立ち上げる。自分たちの退職時の経験から悩みに寄り添い、安心して利用できる退職代行業者のみを紹介する。

退職届は代筆ができる?
基本的に退職届は代筆が認められていません。しかし労働者本人の意思が反映されていれば、代筆が可能です。具体的にどのような人が代筆できるのかをご説明します。
本人の意思によって家族が代筆した退職届なら有効
労働者本人が辞めたいという意思があり、それを家族が代筆した退職届は有効です。病気やけがで、直筆が困難な場面が想定されます。
一方、家族が労働者本人の意思に反して代筆した退職届は、無効です。手術や治療で長期間出勤できないと家族が忖度して退職届を提出しても、この退職届を受け取った会社側は、労働者本人の意思を確認しなければなりません。
つまりは代筆した退職届に、労働者本人の意思が反映されているかどうかがカギになります。
退職代行では代筆を請け負っていない
退職届を代筆するために、退職代行を利用しようと思う人もいるでしょう。しかし退職代行は代筆を請け負っていません。退職代行は、退職の意思を会社に伝え、会社から受けた退職の手続きを本人に伝えるという橋渡しをします。
退職代行では自分で退職届を作成し、郵送で会社に提出するという方法が一般的です。業者によっては、退職届のフォーマットを備えていることがあるため活用しましょう。
退職に至るまでの会社とのやり取りは退職代行が請け負います。できるだけ会社と接触したくない人には、有効なサービスです。
弁護士・行政書士は法的に代筆が認められている
唯一弁護士と行政書士には、退職届の代筆が認められています。どうしても退職届の作成、郵送をしたくないという人は依頼を検討しましょう。
また退職代行の中には、弁護士が運営する退職代行が存在します。このタイプの退職代行業者であれば、会社とのやり取りだけではなく、交渉や退職届の代筆まで丸ごと依頼することが可能です。
行政書士は退職届の代筆は可能ですが、弁護士のように会社との交渉、やり取りは非弁行為に当たり依頼することができません。自分がどこまで依頼したいかを明確にしておく必要があります。

退職届の代筆・代理提出が有効である例
退職届の代筆・代理提出は、本人の意思が反映されて効力を発揮します。具体的にどのようなケースが存在するか確認していきましょう。
事故やけがで直筆が難しい場合
事故やけがで直筆が難しい場合には、退職届の代筆・代理提出が有効です。しかしこの場合、労働者本人の意識が鮮明であることが前提です。
利き手を骨折してしまった。歩行が困難な状態で自らの足で会社に行けない。これらの場合には労働者本人の意思の元、退職届を家族や弁護士・行政書士が代筆・代理提出することができます。
病気による事例も同様で、労働者本人の意識が鮮明で退職の意思を伝える事ができる場合に限られます。
本人が拘留中で弁護士が代理提出する場合
労働者本人が拘留中で、弁護士が退職届を代理提出するケースも有効です。拘留中であれば、実際に自らが会社に赴き退職届を提出する事は困難だからです。よって退職届が労働者本人の意思であれば問題ありません。
拘留中の場合には、けがや病気などがない限り直筆で退職届を書くことが可能です。直筆で書いたものを、弁護士に委任して代理提出してもらいましょう。
弁護士に退職届を代理提出してもらう場合には、退職届のほかに委任状を託すことになります。自分の意思であることを表示するためです。
退職届の代筆・代理提出が無効である例
退職届が本人の意思であると明らかにできなければ、代筆・代理提出は認められません。以下のようなケースは、無効になる事が多いため注意しましょう。
本人の意識がない場合
本人の意識がない場合には、退職届の代筆・代理提出は無効になります。労働者本人の意思が反映されていないためです。本人の状態次第では、回復し復職する可能性が残されています。
事故や病気などの状況下にあることが想定されるため、まずは休職扱いとなることが一般的です。休職期間満了後、自然退職という流れを辿ります。
自然退職については、就業規則や雇用契約書に記載されていて、労働者本人の意思表示がなくても労働契約を終了することが可能です。会社からは退職通知書・休職期間満了通知書などの文書が発行されます。
本人が突然行方不明になった場合
労働者本人が突然行方不明になった場合にも、退職届の代筆・代理提出ができません。この場合にも労働者本人の意思を確認できないからです。
しかし会社側から依願退職という方法を提示された場合には、退職届が有効なことがあります。のちに労働者本人から退職に対して異議が出た場合、親族が責任もって処理するという旨の誓約書と退職届を提出するのです。
会社によっては、「一定期間行方不明になった場合には自然退職とする」と就業規則に定めている場合もあります。長期にわたって行方不明の場合には、労基法の解雇手続きを取り普通解雇になることもあるでしょう。
退職届以外にも退職が有効になる手段がある
退職する場合に、退職届を出す義務はありません。労働者本人が、退職の意思表示をすれば退職は有効です。退職届以外にも退職が有効になる手段をご紹介します。
口頭で退職の意思を示してもOK
退職は、口頭での意思表示でも有効です。就業規則に「退職届は文書のみ受け付ける」という内容の記載がなければ、特に問題ありません。
しかし口頭ではトラブルに発展することがあります。証拠として残るものがないため、退職の意思表示を「言った」「聞いていない」と水掛け論になることがあります。相手の都合の良い内容に捻じ曲げられてしまうこともあるため、注意しましょう。
どうしても口頭で退職の意思表示をしたい場合には、録音や複数人がいる環境で意思表示を行うことで、トラブルを回避することができます。
メールでも退職することができる
退職の意思を伝える手段として、メールを利用しても問題ありません。ビジネスマナーを考えれば印象が悪いですが、何も連絡なく退職をするよりは社会人としての責務を果たすことができます。
しかしメールで退職届を出す例はまだ数少ないため、会社の対応が遅れる事も頭に入れておきましょう。またメールを出す相手が、普段から細目にチェックする人かどうかもその後のスピードに反映されます。
メールは証拠として残すことが可能です。しかし浸透していないため、出社をしたくない場合には直筆した退職届を内容証明郵便で送付すればより確実です。
トラブルを回避するなら退職届がベター
口頭やメールで退職の意思を伝える事は無効ではありませんが、トラブルを回避したいなら退職届を作成しましょう。会社によってはフォーマットがあったり、文書での作成を義務付けていたりする場合もあります。
またご紹介した手段で退職が可能でも、退職を伝える相手によって受け取り方がそれぞれです。不慣れな手段で会社の対応が遅くなると、最終的に退職届を作成した方が早く退職できる場合もあります。
退職できる方法を探る事も大事ですが、次の職場で気持ちよく働けるように、できるだけトラブルを回避することも考えましょう。
退職届を代筆する際に注意すべきこと
退職届はトラブルを避けるための文書です。新たなトラブルを回避するために、以下の点に注意して作成しましょう。
代筆でも退職届の書き方は通常通り
代筆の退職届でも、通常の退職届と同じ書き方で問題ありません。トラブルを回避するという退職届の目的も同じです。
退職届には退職理由・労働者本人の氏名・退職日を記載します。退職理由は自己都合退職の場合には、「一身上の都合」と記しましょう。会社都合による退職は、「会社都合による退職」と記します。
自己都合による退職と会社都合による退職は、退職失業給付金が支給されるまでの期間・支給日数が異なるため、必ず明らかにしておきましょう。
退職願か退職届かで意味合いが異なる
退職届を代筆する際には、退職願か退職届かという点も注意しましょう。同じような言葉ですが、意味合いが違います。
退職願は、労働者が退職の意思を示して会社の承諾を得るという意味があります。退職届は、労働者が退職の意思を明確にしている場合に用います。退職願は労働契約の解約を申し出るもので、退職届は労働契約を解約する告知文書と考えましょう。
会社によっては「退職時は退職願を提出する」と規定を設けていることがあります。この場合には、退職願を退職届と同じものとして考えて差し支えありません。
就業規則の確認をしよう
退職届を代筆する前に、就業規則を確認しましょう。会社によっては、退職届について就業規則で定めている場合があります。規則通りに退職を進めるのが、もっとも早く退職できる方法です。
どの程度前から申し出る必要があるのか、どの役職者に提出すべきか。できるだけ社内が混乱することがないよう、引き継ぎもしっかり行いましょう。
規則に反した行動や十分な引き継ぎを行わなかった場合には、新しい会社で悪い噂として、社員があなたの情報を持っていることがあります。早々に肩身の狭い思いをしないためにも、規則通りに退職を進めましょう。
退職代行業者のフォーマットを利用しよう
退職届を作成するにあたって、退職代行業者がフォーマットを持っている場合があります。退職代行業者を利用する予定がある場合には、一度確認しましょう。
フォーマットは、退職届の書き方に不安がある人にもおすすめです。代筆の退職届を考えていた人でも、フォーマットを活用すれば簡単に作成することができるため、直筆を考え直す場合があります。
直筆の退職届以上に確実なものはありません。活用して素早く確実に退職ができるよう努めましょう。なお、会社によってはフォーマットが準備されている場合があります。事前に確認をしましょう。
雇用形態で退職時期は異なる
退職届を代筆する前に、退職時期を確認しておきましょう。雇用形態によって退職時期が異なるため注意が必要です。それぞれについてご説明します。
正社員ならいつでも退職が可能
正社員として雇用されていれば、いつでも退職することが可能です。退職したいという意思を表示すれば、即日でも辞めることができます。
民法627条1項では、「雇用は、解約申入の後2週間を経過したるに因りて終了する」と記されていていますが、あくまでも民法は任意法規という位置づけであり、実際には意思表示をした日から退職が可能です。
就業規則に「退職する場合、1ヶ月前に申し出なければならない」とあった場合でも即日退職が可能ですが、就業規則に順ずれば会社とのトラブルを回避することができます。
契約社員は契約満了まで働く必要がある
正社員と異なり、契約社員の場合には契約満了まで働く必要があります。契約時に、民法の627条1項とは異なる契約を交わされていて、民法よりも契約を優先する必要があるからです。
契約の満了時期が近づくと、更新の希望を聞かれたり面談を行ったりすることがあるでしょう。このタイミングで、退職希望日の何日前までに意思を申し出る必要があるかを確認しておくとスムーズです。
一般的に契約満了で退職する場合には、退職届は必要ありません。契約途中で退職する場合には、体調不良や契約した労働条件と違うなど相応の理由が必要になります。
【まとめ】退職届を代筆するなら専門家に相談しよう
退職届の代筆が有効なケースは、労働者本人の意思が反映されている場合に限られます。弁護士や行政書士は法律的に代筆が認められていますが、この原則は同じです。
けがや病気、拘留中の場合には代筆が認められますが、労働者本人の意識が鮮明でハッキリと意思表示できることが前提です。
口頭やメールで退職の意思表示をすることも可能ですが、トラブルを回避するためにも就業規則を確認して、可能な限り直筆の退職届を提出する事をおすすめします。フォーマットを備えている退職代行もあるため、これらをうまく活用して気持ちよく退職しましょう。